映画作品紹介「最強のふたり」
巷で話題の作品だったフランス映画「最強のふたり」をようやく鑑賞することができた。
この「最強のふたり」は、あの「千と千尋の神隠し」の記録をも上回り、2011年11月にフランスで公開され、「ハリー・ポッターと死の秘宝Part2」「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」などのハリウッド超大作を抑えて年間興収第1位を記録。フランス国民3人に1人が観たという。
さらには、ドイツでも7週連続1位となり、「アメリ」を抜いて過去ドイツで公開されたフランス映画の興収No.1を獲得。オーストリアでも6週連続1位、スペインでも記録を更新。第37回フランスアカデミー賞(セザール賞)に9部門ノミネートされ、オマール・シーが主演男優賞を受賞。昨年、開催された第24回東京国際映画祭ではグランプリと主演男優賞をW受賞するというすごさ。
なぜにそんなに素晴らしい作品となったか?
監督:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、アンヌ・ル・ニ他
「最強のふたり」は、車いすで生活している大富豪と介護者として雇われた黒人青年が垣根を越え友情を結んでいくストーリー。年齢や環境、好みなども全く異なる二人が、お互いを認め合い、二人一緒にいることで、刺激し合い変化しあっていく過程を描いていく実話を基にしたヒューマン・コメディーである。
簡単な話の流れはこうである。
パリに住む富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、頸髄損傷で首から下の感覚が無く、体を動かすこともできない。フィリップと秘書のマガリ(オドレイ・フルーロ)は、住み込みの新しい介護人を雇うため、候補者の面接をパリの邸宅でおこなっていた。そこに、ドリス(オマール・シー)は、職探しの面接を紹介され、フィリップの邸宅へやって来る。しかし、ドリスは職に就く気はなく、給付期間が終了間際となった失業保険を引き続き貰えるようにするため、紹介された面接を受け、不合格になったことを証明する書類にサインが欲しいだけだった。にもかかわらず、気難しいところのあるフィリップは、介護や看護の資格も経験もないドリスを、周囲の反対を押し切って雇うことになる。
ここに実話のおもしろさがある。理由をフィリップの気むずかしさや変わった性向に落ち着かせてしまえばそれまでだが、フィリップはファーストインプレッションで何かをビビッと感じたはずである。周りの者からは計り知れないその思いつきともいえる“物好きな”選択が、その後の生まれも育ちも全く違う、趣味も個性も全く異なる二人がお互いを高め有っていく最強のパートナーとなっていくところに人生の妙が存在するのである。
“フィリップは、自分のことを病人としてではなく、一人の人間として扱ってくれる”ことを瞬時にかぎ取ったのであろう。
事細かに書くとこれから鑑賞される皆さんが面白くなくなってしまうので言わないが、障碍をもった方とのふれあいを描いた作品の場合、なぜにか何らかのテーマを見る側に押しつけてしまう傾向があるのだが、この作品は全くそんなところがない。それどころか、ドリスの行為を見ていると、障碍をある意味笑いものにしているような場面も多く存在する。しかし、ドリスのそのような行為が嫌悪感を生み出さないのはなぜなのだろうか?ここにこの作品の素晴らしさがあるのだろう。
オリヴィエ監督は、6月の来日時に行われたイベントで、次のように述べたという。
「今、ヨーロッパは経済危機など、さまざまな問題を抱えています。かつてのヒーロー像は超人的で人間離れしたものが多かったが、今の人々に受けるヒーロー像は、リアルで普通の人間。本作の主人公2人は、障害や、移民の問題で社会から排除された人間。誰も、そういう境遇になりたくないと思ってるが、その“怖い”とか“不安”という気持ちの上に“笑い”を入れることで、彼らがリアルなヒーローに見えるんです。それがヨーロッパで受け入れられたのではないかと思います」彼らが次第に、お互いの人生にとって決して欠くことの出来ない心の、魂の友となっていく、その過程から我々は自分たちの中にある壁を感じ、それを乗り越えるためのエッセンスを知ることになるだろう。
評価 ★★★★★ 90点
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