さて、いよいよ昨日から新学期がスタートしました。
新学期を迎えて、生徒さんたちは新しいクラス環境と人間関係の中でどのように一年を過ごしていけるのか?
不安と期待でいっぱいでしょう。
他方で、この時期、期待感と不安感~多くの方は不安感のほうが強いはずですが、それを表立っては隠しています…~でいっぱいな方々がいらっしゃいます。
そう、教師の皆様です。
この時期に(感極まってか?)自己紹介で涙ぐんでしまう人もおります…。
もしかすると、近年話題の“学級崩壊”には絶対になりたくないと思うプレッシャーもあって、実は、子どもたちよりも教師のほうが不安感は強いのかもしれませんね。
こうした新学期によく言われるのが
「黄金の三日間」というキーワードです。
これは、入学して最初の3日間だけは素直に教師のいうことを聞く期間がある。
この「黄金の三日間」の間に、担任が生徒のキャラクター把握および学級経営方針を決めてしまわないと、四日目からは生徒が反発し担当のクラスが学級崩壊する、とされる通説です。
この時に、一番、教師が気にするのが、それぞれの生徒のキャラクターだけでなく、学級間の生徒の序列構造…。
どの生徒・グループに最もちから(権力)があるのか?
どのような嗜好をもとにそれぞれのグループが構成されているのか?
個人間・グループ間の力関係はどうなっているのか?
など、など…。
教師は、学級担任として、はたまた教科担任として、これから(既に存在している)教室内に作られるはずの権力構造を事前に予想しようとする傾向が強いのです。
つまり、“黄金の三日間”という通説を信じ、それにもとづいて学級経営などを行おうとする教師は、学級が崩壊するのを防ぐために、まずは教室内に構成される権力構造を利用して、学級経営を行う傾向があるというわけです。
さて、この教室内、広くは学校内に形成される権力構造のことを指し“スクールカースト”なる言葉が近年よくつかわれます。
スクールカーストとは、主に中学・高校のクラス内で発生する階層のことです。
こうした教室(学校)内に潜むヒエラルキーに焦点を絞り、これまで蓄積されてきたいじめの研究を参照しながら、新たに学生や教師へのインタビュー調査を実施し、その本音を生々しく聞き出し、加えて、大規模アンケート調査もふまえ、それが維持される背景に迫ったのが、今回、紹介する「教室内(スクール)カースト」鈴木翔著、本田由紀解説、光文社新書です。
【目次】
はじめに
第1章 「スクールカースト」とは何か?
第2章 なぜ今、「スクールカースト」なのか?
第3章 「スクールカースト」の世界
第4章 「スクールカースト」の戦略
第5章 教師にとっての「スクールカースト」
第6章 まとめと、これからのこと
あとがき
解説/本田由紀
ネットで「スクールカースト」でググってみると、何と、ヒット数538000…。
いかに多くの人がこの言葉に興味を持ち、それについて書かれているかがわかります。
中には、「
スクールカースト診断テスト」なるものも存在しました。
ちなみに、(適当に答えはしたが…)私のカーストはC軍、“あまりものグループ”らしいです。 ( ゚Д゚)
ちなみに、そのページでは、カーストのクラスは次のように説明されています。
【カースト説明】
S/Aクラス "1軍"とも。モテ層。Sクラスは学年に1人程度のレアキャラ。多くの異性・同性の人気を独占している。
Bクラス "2軍"とも。一般層。行動すれば、普通に恋愛市場には参入できる。
Cクラス "3軍"とも。非モテ層。クラスで班分けをすると、余りモノグループに入ることが多い。
Dクラス "アチュード"とも。不可視層。他の人からは存在自体がないものとされている。
鈴木氏によると「スクールカースト」は次のように定義されます。
同学年で対等なはずなのに、「あの子たちは『上』で、あの子たちは『下』」という序列を生徒たちが認識・共有すること
そして、鈴木氏によると「スクールカースト」という名前はつぎのように生まれてきたということでした。
2000年代後半に教室内で「下位グループ」であった子供たちがインドのカースト制度になぞられて鬱積した不満をネット上に書き込んだことにより広まった
教育評論家の森口朗氏が2007年に出版した「いじめの構造」という本の中で、『いじめモデル』にリアリティを持たせるため、『スクールカースト(クラス内ステータス)』という概念を持ち込んだ
さて、こうしたスクールカーストという言葉を表舞台にあげた最初の研究者は、本書の解説にも登場する本田由紀です。
それまで、宮台真司によると、現代の学校空間においては、クラス内にいくつかの友達同士のグループが形成され、それらの内部で活発に交流が行われるだけで人間関係が完結する現象がみられ、そうした現象は、教室内に限らず若者のコミュニケーション空間全般で発生しているとされていました。
そして、こうした若者の世界に発生している現象を「島宇宙化」と呼び、分断された各グループ(島宇宙)は優劣のつけられない横並びの状態(フラット化)になっており、異なるグループ間でのつながりが失われたとされていました。
しかし、これについて異議を唱えたのが上記の本田由紀です。
本田は、宮台が指摘するこうした分断化自体は認めながらも、教室内の各グループは“等価な横並び状態にあるのではなく”“序列化(上下関係の付与)が働いている”としたのです。
そして、この序列はスクールカーストと呼ばれ、教室内で、彼ら彼女らは、この上位層・中位層・下位層をそれぞれ「一軍・二軍・三軍」や「A・B・C」などと表現するようになったというのです。
では、こうした序列の構造が生み出される原因はどこにあるのでしょう。
森口朗によれば、スクールカースト上での位置決定に影響する最大の特性はコミュニケーション能力らしいです。
クラス内でのステータスの上下関係自体は以前からあったものの、それは運動神経や学力が大きく関係したものであっそうです。
しかし、現在では判断基準がほとんどコミュニケーション能力に依存している点がこのスクールカーストの新しい点であると指摘しています。
ここでいうコミュニケーション能力とは、具体的には「自己主張力(リーダーシップを得るために必要な能力)」、「共感力(人望を得るために必要な能力)」そして「同調力(場の空気に適応するために必要な能力)」の3つを指すようです。
他方で、コミュニケーション能力の有無に偏重したスクールカーストという序列が発生した背景には、学業成績の相対評価を廃止するなど生徒に対する序列付け自体を否定するような過剰な平等主義が指摘されています。
「学業成績」、「運動能力」といった(努力で挽回可能な)特性によるアイデンティティを失った子供たちは「人気(コミュニケーション能力)」という(努力で挽回不可能な)特性に依存した序列付けを発生させてしまったのだといいます。(和田)
私が本書を通じて、この教室内に存在する序列・階層構造の存在の問題で一番大きな問題だと感じたのは、そうした序列構造に対する教師の姿勢です。
先にもあげたように、鈴木氏によると、学校の先生もこのスクールカーストを利用して教室を経営しているのです。
本書でも紹介されていますが、鈴木氏が実際に現役の教師にインタビューしたところ、上記の黄金の三日間に教師が生徒のキャラクター把握および学級経営方針を決めてしまうことが非常に大事であること、そして、その三日間の間に教室内の「力関係」を把握し、誰と仲良くするかを決めておかなければならない、そして、その結果、仲良くするのは「上」の生徒ばかりになり、「下」の生徒は先生自身も無視しているようです。
私個人の感覚からすると、マジっすか?…( ゚Д゚)って感じですけど…。
本書に登場する高校教師のMさんによると、自分が望む方向に授業を持ってゆくには「上」の生徒を使うのが重要であると考えているようです。
彼は、これができない先生は「先生失格」とまで述べています。
また、別の高校教師であるKさんによると、「スクールカースト」による「地位の差」を何かしらの「能力差」と解釈しています。
そして、Kさんはスクールカーストなる階層・権力構造なるものを肯定したうえで、
自分自身の長所短所を把握するには、立場の強弱をわからなければならない。これ(スクールカースト)を通じて世の中にはたくさんこのような人たちがいるということを知っていかなければならない。ゆえに、コミュニケーション能力や人間関係を学ぶ上でも肯定しなければならない
とも述べています。
本書におけるインタビューの件数は、紙数の関係からか限られた数のものであることを考えると、このような考え方が一般的だと断定するのは危険なような感じがしますが、雰囲気的には多くの先生方がそう考えていると私も個人的には感じます。
しかし、大切なのは、いじめとこのスクールカーストの構造に関する相関もあり、いじめを助長する、もしくはいじめの構造の基盤となっている分部もあるはずであるということです。
さらには、スクールカーストの上位にいる者も下位にいる者も、この構造自体に精神的なプレッシャーやダメージを受けているということです。
そこで、そうした構造を横支えし強化する役割自体を教師自身が担っていて、それが生徒に息苦しさを与えているということを教師自身が意識する必要が非常に大事だと思います。
今後の研究のさらなる進展に期待したいと思います。