アンジェラの灰
とにかく「貧乏」と「不幸」のてんこ盛りだけど、なぜか最後には「悲壮感」で終わらない作品…。
アンジェラの灰
この作品の原作は、ピューリッツァー賞を受賞したベストセラー小説で、内容としては、作者のフランク・マコートの貧しかった幼少期を描いています。
舞台は、世界恐慌の1930年代のアイルランド。
「これでもか!これでもか!」というくらいの貧乏と不幸のドン底の中でも明るくユーモアを持ち一生懸命に生きる少年とその家族の愛と感動が描かれています。
世界的大恐慌の1930年代。
ニューヨークで出会って結婚したマラキ(ロバート・カーライル)とアンジェラ(エミリー・ワトソン)は5人の子供をもうけていたが、生活が貧しく、生まれたばかりの娘マーガレットの死を機に、一家で故郷アイルランドのリムリックへ戻ることに。
小さな部屋を借りた彼らの生活は、仕事もないのにプライドだけは高い酒飲みのマラキのせいで一向に楽にならない。アンジェラだけが子供を守るために奔走する。
そんな母の姿を見守り続ける長男フランク(少年期:キアラン・オーウェンズ)は力強く成長。学校では作文の才能を認められたりもした。
やがて父マラキはイギリスへ単独出稼ぎに出掛ける。しかし何の連絡も金も届かない。
フランクは石炭運びの仕事を始めるが、結膜炎になり断念。
そしてクリスマス。帰国した父は、無一文のままだった。再び出ていった彼はそのまま蒸発。ついにアパートから追い出された一家はいとこの家に厄介になる。
フランク(青年期:マイケル・リッジ)は学校をやめ、家を出て、電報配達人として働き始める。いつしか、彼の心にアメリカへの夢が芽生え始める。一生懸命金を貯めたフランクは、ついにアメリカ行きの船に乗り込むのだった。
上でも書いたように、この作品の原作は、フランク・マコートが自らのアイルランドでの貧しい少年時代を綴った『アンジェラの灰』。どこまでも悲惨な時代を愛とユーモアで乗り越えるフランク少年の姿は、瞬く間に人々の心をとらえ、世界26カ国で翻訳、北米だけで400万部、世界で600万部以上という驚異的な売り上げを記録、大ベストセラーとなったようです。そうしてこの作品は、1996年ノンフィクション部門のベストセラー第1位に輝き、翌年には見事ピュリッツァー賞を受賞しました。ピュリッツァー賞はジャーナリストや報道写真家、ノンフィクション作家の登竜門となる賞で、ニューヨークの高校教師だったマコートが、67歳で生まれて初めて書いた作品でこのピュリッツアー賞を受賞したことは大きな快挙であり、当時大きなニュースとなったということです。
さて、この作品のみどころとしては、上にも書いたように、「これでもか!これでもか!」というくらいの貧乏と不幸のドン底の中にありながらも、明るくユーモアを持ち一生懸命に生きる少年とその家族の愛がうまく表現できているところにあると思います。
不幸と貧乏の陰鬱さの中にも、なぜか「明るさ」と「希望」が感じられる作品になっているのです。
それはなぜか?というと、フランクが、そんな悲惨の生活の中においても、何らかの「喜び」や「希望」を感じる生活の術をもっているからなんだと思います。
例えば、酒飲みのダメ父親から面白い話を聞いては笑い転げてみたり、悪ガキどもと一緒に、同級生の姉妹の着替えを覗いてオナニーしてみたり、腸チフスで入院してシェイクスピアを愛読し、入院の結果として留年が決まっても素晴らしい作文で教師を唸らせて元の学年に復帰したり…。
そうした一つ一つの体験の中に、私たち見る者も感じる苦しさやむなしさを忘れさせてくれる何か存在するんでしょうね。
そして、そうした原作のすばらしさをここまで忠実に表現できたのも、監督のすばらしさもさることながら、素晴らしいキャストのおかげだと思います。
後から冷静に考えてみると、一家の大黒柱であるべき父親マラキに対しては、正直にいって冒頭からすごくイライラし通しで、画面に向かって何かを投げつけたい心境 になったぐらいです。ここまで作品の中の登場人物に感情移入してしまうのも、「プライドが高く、人に頭を下げることができず、仕事も続かず酒浸り。大事な子供の出産祝いも全部飲んでしまうような『本当のダメ親父』」、そんなダメ親父の役作り、演技力が素晴らしからこそ、そこまで感情移入してしまったのでしょう。
最後になりますが、この作品名である『アンジェラの灰』の意味は、原作本で渡米したフランクが、その後に母や弟のマラキをニューヨークに呼び寄せ、1981年に母のアンジェラが亡くなるとその遺灰を持ってアイルランドを訪れることからきているようです。
フランクが1949年にニューヨークに帰ってからの部分は、続編の『’Tis』で語られているようなので、ぜひその作品にも目を通してみたいと思う。
「総合評価 ★★★★☆
90点」
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