ランド・オブ・プレンティ
それは「ランド・オブ・プレンティー」です。
この作品で、ヒロインのラナに扮するのは、ゲイのイニス役(ヒース・レジャー)の妻役です。
「ブロークバック・マウンテン」では離婚してしまうのですが、なんと実生活ではこの映画がきっかけで結婚してしまったとか…。
「ストーリー」
イスラエルで育った少女ラナは、亡き母の書いた手紙を伯父ポールに渡すため、10年ぶりに故郷のアメリカに帰ってきた。
ベトナム帰還兵で、誇り高き自由の地アメリカを一人で守ろうとしているポールは、アラブ系のホームレスが殺される現場に居合わせ、そこで2人は再会を果たす。
やがて、ラナはホームレスの遺体を残されたホームレスの兄に届ける為に、そしてポールは事件の真相を突き止める為に、共にアメリカを横断する旅に出るのだが・・・。
この作品は、ロードムービーという形で、対照的な二人の姿、夢が崩壊したアメリカの姿を描いていきます。
戦争帰りの心を病んだ伯父は、妄想的な攻撃性で、パラノイア的に執拗にテロを警戒して、監視活動を続けています。
しかし、そうした彼の行動に、イスラエルの現実を知っているラナは、批判や攻撃をすることはありません。
ただ、彼女は彼をだまって受け止める。
その彼女の姿は、その慈悲に満ち、柔らかで、そして優しさに満ちています。
そんな彼女の姿に、見ている私もいつの間にか包み込まれていました。
この作品を通して、監督のヴェンダースは、同時多発テロ「9・11」そのものに焦点を当てるのではなく、2人の関係を映し出すことによって、アメリカの内部に横たわる現実をさりげなく描き出しています。
そして、そのことを通して、アメリカに対して、あるテーゼを優しく投げかけています。
「貧困とパラノイアと愛国心」
これが、監督であるヴェンダースのテーゼです。
ヴェンダースいわく、同時多発テロ以降、アメリカの「あふれかえる混乱や痛みやパラノイアに向き合おうとする映画」を作ろうと意図したようです。
ヴェンダースのそうした視点と愛は、常に冷静で、慈悲に満ち、愛にあふれるラナの姿に映し出されているようです。
このようなラナのような人間像は、ヴェンダース監督がアメリカ人ではなく、冷静に外側の目線から作品を創作することができたから生まれたものなのでしょう。
世界の人間がお互いに憎しみ合い、いがみ合い、殺しあうのではなく、どうお互いの本質の部分に向き合い、それを理解し、関係を気づいていくべきか?
その課題に対して、大事な視点をこの作品は投げかけているのではないでしょうか。
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「総合評価 ★★★★
☆ 85点」
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