「15歳からの労働組合入門」

2014年03月12日

『15歳からの労働組合入門』東海林 智(とうかいりん さとし)を読みました。




労働組合入門と銘打っていますが、労働組合とは何たるかとか、労働組合法の解説、どのように組合を組織するかなどの内容ではありません。
若い人たちの労働実態を丁寧にとりあげたルポタージュです。
1つ1つの事例の主人公となる労働者の声を丹念に聴き取り、その根底にある問題の本質を鋭く抉り出していきます。
 
五年前、リーマンショック後の不況と年越し派遣村の現状が大きくマスコミに取り上げられていた時には、見えなかった現実に衝撃を受けた方も多くいたはずです。しかし、時が経つにつれて多くの人があの状況を忘れてしまってはいないでしょうか?日々生きることで精いっぱいで…。

正直なところ、五年前と今とでは、労働者の置かれている状況はほとんど変わらないといっても良いでしょう。
そのことは、本書に登場する方々の生活のリアルな状態を見ていくと詳細に理解できます。
定住所を持たずネットカフェやマックで日々綱渡りの生活をしている若者たちの生活…。
多くの若者たちが過酷な生活状況に置かれていることを国は知っているにもかかわらず、不当解雇や雇い止めはますます横行し、労働者派遣法は再び改悪される危機にあります。

本書で指摘されるように、「08年から09年の“派遣切り”と、派遣労働の過酷さを目の当たりにさせた『年越し派遣村』での教訓を踏まえ、派遣法制定以来初めて緩和ではなく規制強化にカジを切った12年の改正労働者派遣法が、一年ちょっとしか経たないうちに、安部政権下で派遣法の規制緩和の方向で見直しが検討されて」おり、「しかも、今回の見直しでは、『いつもある仕事には派遣労働者を使わない。派遣労働者を使うのは一時的、臨時的業務である』という派遣法の根幹である『常用代替防止』を投げ出す緩和」が目指されており、いま以上に「不安定な雇用を際限なく広げる危険性」を持つ改革(緩和)が進められようとしています。

いわゆるブラック企業問題も規制の方向に進んでいるようにも見えていますが、新自由主義的改革が進む中で、未だに労働者をいつでも代替可能なモノ扱いし、嬲り殺しのような労働環境の中に置くことを全く厭わない価値観が企業の中には蔓延しています。
同時に、労働者たちは、権利主体として、そのような企業に対峙し立ち向かうのではなく、彼ら自身が喪失感や絶望感、無力感の中で力を奪われ、逆にそうした価値観を前提として生き残り競争に自らを追い立てていきます。
 
本書の最後にある対談の中にあるように、いま労働の現場で行われていることは、まさに「ある種のテロというか破壊活動」です。
人が壊されるだけでなくて、社会そのものだけでなく、家族関係も壊されていく状況があります。

「仕事のせいで健康を害し、働けない方が出ると、家族がそれを支えなくてはいけない。それこそ『NPOもやい』の稲葉剛さんが『絆原理主義』とうまいことを言いましたが、地域と家族の関係が今は希薄になっています。家族もこの過酷な労働市場のなかで生きているので、支え合う余裕がなくなっている。同じ状況で働いていない世代間の分断もあるので、なぜ頑張れなかったのか、もっと頑張れたんじゃないか、と
いうふうに家族同士でも見てしまう場合もある。一人でも家族の中に壊れてしまった人間が生まれると、それを認められなくなる。そうやってどんどん家族関係も壊れていく。分断され、バラバラにされていく。ですから、単に企業が一人の労働者の権利を侵害したという問題だけではなく、もっと大きな重い意味があると思っています。人の営みそのものを破壊してすまう。そういう意味では、これは単に労使間の問題で
はなく、このままの社会でいいのかという問題提起をしていかなくてはいけない。」(p205 神部)
 
まさに、そうだと思います。
そして、大事なことは、このような労働環境の中で、横行する違法労働に対する係争をもっとちゃんとやっていくということであるということを本書の事例を通して痛感しました。

「今は、一人ひとりが権利主体になれず、諦めてしまう社会です。そうすると結局、『やったもの勝ち』になってしまう。ブラック企業は鬱になるまで働かせて、結局自己都合退職に追い込むようなことをやる。そうすると、医療費は全部個人、あるいは国が負担して、ブラック企業は利益だけをかっさらっていく。揚句の果てには、タックスヘイブンなどに金を持っていって税金すら払わない場合もある。『やったもの勝
ち』にさせないためには、きっちり労災にし、賠償金も支払わせていくことが大切です。もちろん残業代不払いも取るべきですし、それだけではなく労災にさせて、そこからのペナルティを国家から企業にしっかりかけて、さらには復職まで圧力をかけて
いく。一件一件個人の被害を、弁護士や労働組合が支援し抜くことによって、ブラック企業はフリーライドできなくなる。まず、その社会的支援の輪を広げなくてはいけない。ですから今は青年ユニオンをはじめとしたごく一部のコミュニティ・ユニオン、そして一部の弁護士の支援活動ですが、もっと仲間を増やして、いろいろな社会位的支援をそこに集中していくべきです。これはよく熊沢さんが言うことですが、たった
一人を守る労働運動を日本全国にもっと広げていかなくてはならない。これがブラック企業を現場から淘汰していく最良の方法でしょう。」(p206 今野)
 
搾取され、責め立てられ、非人間的扱いを受けるような状況の中で、本書に登場した方々のように、人間としての権利や尊厳を取り戻すために立ち上がり、労働組合を通して連帯して道を切り拓くための闘いに挑んでいくその姿こそ、これからの過酷な労働市場の中で、いかに自分らしく生きていくのかを追及していく際に大事なことなんだと痛感します。

日本の学費の問題と奨学金の返済に苦しむ若者の多さに関しても、私自身の経験も踏まえて若者の多くが置かれている現状をリアルに実感します。
私自身も大学院を卒業して15年以上になりますが、いまだに大学、大学院の奨学金の返済に追われています。
定職についていますので、何とか返済できていますが、そうでない状況にある方々にとっては死活問題です。
意図せず返済が滞ったばかりにブラックリストにのせられてしまう状況も多々あるようです。
また、そのような状況になりたくがないばかりに就職を急ぎ、さらには暴力的な職場の環境、搾取される状況に対して、(保証人となる親御さんに迷惑をかけまいと、奨学金の返済のために)何も言えずに、最終的には鬱状況になり離職を余儀なくされたり、過労死や自殺を選ぶ若者もいます。
そのような状況を置かれ分断されている若者たちがいかに手を結び、理不尽な社会に対して理性的に抵抗していくのかという一つの手段として、やはり労働組合や労働運動を今一度、立ち上げていくことが大事なんだと思いました。




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Posted by no-bu at 07:13│Comments(0)読書
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