読書「あんぽん~孫正義伝」

2012年05月05日

最近、買う本、買う本(ナミヤ雑貨店の奇蹟舟を編む)ぜんぶヒットしてます。

で、今回紹介するのは、「あんぽん~孫正義伝」佐野眞一著、小学館です。
読書「あんぽん~孫正義伝」
















今から55年前の昭和32(1957)年、佐賀県鳥栖駅に隣接し、地番もないという理由で無番地とつけられた朝鮮部落に生まれ、豚の糞尿と、豚の餌の残飯、そして豚小屋の屋でこっそりつくられる密造酒の強烈なにおいの中で育った。
にもかかわらず、現在では、世界長者番付で例年日本人ベストテンの中にはいるまでの成功をおさめた男、そうソフトバンク社長、孫正義。
これまでも、彼の人物像に迫ろうとした人間は何人かいたでしょう。
しかし、「孫正義にいつもまとわりついているいかがわしさは一体どこから来るのか」「誰でも感じているはずのそんんないかがわしさの根源」に迫ることができた者はいない。
そんなどことなく掴みとれない孫正義という傑出した人物を生み出した背景に迫るノンフィクション作品、それがこの「あんぽん」です。

本書を読もうと思ったきっかけ、それは題名の「あんぽん」にあります。
あまりにも衝撃的でした。
「あんぽん」とは、孫の旧姓・安本から取られたもので、孫は、この姓を音読みして「あんぽん」と呼ばれることをひどく嫌っていたようです。在日三世という出自を隠して生きてこなければならなかった自身の半生に対する侮蔑につながるからです。

だからこそ、孫は1990年日本に帰化したが、あえて安本ではなく韓国人としての本来の姓である孫を名乗ることを選びました。だが、法務省からは「日本にはその姓がないから」という理由で拒絶されます。
そこで孫は日本人である妻をまず「孫」に改姓させ、「日本人にも孫姓がいる」という前例を作って、強引に改姓を認めさせたのです。孫のこの行為には、上で述べたように、あえて差別を覚悟して、それを乗り越えていくという孫の覚悟と力強さを見て取ることができます。

この孫と名乗る事への彼の思いは、ソフトバンクの前身であるソフト卸の会社ユニソン・ワールドの社名にも現れています。
会社設立にあたって、孫の名前を使うか、日本姓の安本を使うか、2つの選択肢があったが孫は迷わず前者を選んでいます。韓国の名では銀行からも差別される、なぜ難しい道を選ぶのか、と反対する親戚たちに、孫はこう答えたといいます。

「(前略)孫という本名を捨ててまで金を稼いでどうするんだ、と言いました。それがたとえ十倍難しい道であっても、俺はプライドの方を、人間としてのプライドの方を優先したいと、言いました」
こうした彼の出自に関わるプライドと思いを知ることが、彼の強さと現在の彼の立ち位置を決定づける源になってるということを強く知ることができます。

こうした新たに知ることができた事実に始まり、本書の醍醐味はこれら新事実を発見する度に、孫氏本人にインタビューを行い、それが彼のパーソナリティーにどのように影響したのかを確かめていった点にあります。
そうした事実の中には、孫氏も知らない真実を掘り起こしたことすらあります。
そうした著者である佐野に対して、孫は「しかし、佐野先生の取材力はすごいですね。僕も随分勉強になりました。」といいいます。まさに、孫も賛美するその取材力から導き出される事実、1つ1つが孫という人間を奥底から理解するためのものとなり、彼の人間らしさに引き寄せられる。

二つめに、本書の魅力は、彼に触れたその他の著書と異なり、彼を一方的に賛美するものではないという点です。
本書でも触れられていますが、彼はソフトバンクの創業者として、他人を裏切り、人の人生を狂わせるようなこともしています。
さらに、孫の親族は異常に見えるほど互いに仲が悪く、文字通り骨肉の争いをしている者たちもいるのです。

また、佐野は、「孫が最終的に目指すという、誰もが情報の発信者になれるという社会は、本当に理想郷なのだろうか。それは究極の民主主義社会に見えて、実は究極の愚民社会になるのではないだろうか。」
「私がここで言いたいことを要約すれば、人間の本当の価値を決める“知の等高線”を一切なくしたフラットな社会に、人間は本当に耐えられるのか、ということである。一見平等なその社会は、おそろしく退屈で人間の努力や生真面目さを奪う結果になるのではないか。そんな世界が本当に実現したら、何を糧にし、何を目標にして生きていいかわからない人間が大量に生まれ、たぶん自殺者が続出することになる。」(p181~183)と孫の目指す「光の道」構想を辛辣に批判しています。
このような孫の出自にまつわる負の側面だけでなく、彼に対する辛らつな批判までも余さず佐野は、本書に描く。
このようにして虚飾を剥ぎ取った末に浮かび上がったものが、文字通り等身大の孫正義像なのです。

佐野は、最後にこういっています。
「孫正義よ、頼むから在日でいつづけてくれ。そして物議を醸しつづけてくれ。あなたがいない日本は、閉塞感が漂う退屈なだけの三等国になってしまうからである」。

読了後、リーダーがいない、閉塞感漂うこの日本にあって、彼のような存在の重さを強く認識させられました。
ぜひ、一度、読んでみる価値のある内容である。

「評価 ★★★★★ ★★★★☆ 90点」



★Face bookもよろしく!→http://www.facebook.com/#!/hironobu.higa
同じカテゴリー(読書)の記事
レイヤー化する世界
レイヤー化する世界(2014-04-01 09:39)


Posted by no-bu at 08:08│Comments(0)読書
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。