アントキノイノチ

2012年08月08日

先日、沖縄国際大学での「パーソナル・サポート・フォーラムin沖縄 〜結まーるの再生〜縁と絆の結び直し〜 が開かれました。
私もそのフォーラムに参加しましたが、約600名が参加し、講堂が瞬く間に一杯になりとても大盛況でした。
反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さんの公演や支援に関わる様々な機関の方々のリレーパネルディスカッションも行われ、社会的に行政による支援が行き届いていない現状の中で、色々な“セーフティネット”からこぼれ落ち、社会的困窮状態にある人をどのような形で支援していけるのかを考える良い機会になりました。
昨今、人人との繋がりというものが、色々な場面でたびたびクローズアップされます。
しかしながら、上記のように社会的困窮状態にある人びとがどのような形で、そのような状況に追い込まれていくのかということを考えた場合、自ら支援を要請すること(自らの親族に対してさえも)ができないとか、いったん職についても、人間関係を上手に結ぶことができず、なかなか仕事が続かないために、そのような状態に最終的に陥っていく若者たちがかなり多くいるということを知りました。
人との繋がりを自ら絶ってしまう若者、人と繋がりあうスキルを持ち得ない若者、なぜそのような若者が生み出されていく現状をどのように考えれば良いのでしょうか。
教育の仕事に携わる者として、非常に深く考えさせられるテーマです。
このことは、連日報道される“陰湿ないじめ問題”の根とも大きく関連しているはずです。

アントキノイノチ

今回、鑑賞した“アントキノイノチ”を通して、人と人との繋がりを断っていく何ものかが、現代の社会、若者の間に横たわっており、その中で若者達は、心の中では繋がり合いたいと切望しているのに、それができない状況の中で、必死にもがき苦しみ悩んでいるのだろうなということを強く感じました。


「アントキノイノチ」
監督:瀬々敬久
出演:岡田将生、栄倉奈々、松坂桃季、鶴見辰吾、壇れい


本作品は、さだまさしの同名小説を映画化したものです。
遺品整理業という仕事を通して、もがき苦しみながらも成長する若者の姿を描いています。
遺品整理業という特殊な仕事を通して「命」の重さ、人と人が繋がる尊さを描いていきます。
遺品整理業とは、様々な理由から死と向き合えない遺族に代わって遺品を整理する仕事です。
その仕事を通して、出会った心に傷を負う二人の若者。
お互いの過去と向き合い、それを共有しようとする中で、新しい繋がり合い、人間や生や死と向き合っていこうとする姿が描かれています。

原作とは、結末が異なることなどから、ネットでは色々と厳しい評価を受けております。
確かに、個人的にキャストのミスマッチや演技力などでも課題があると思いますが、作品の内容としては、上記のような現代社会、若者の間に横たわるドグマの存在について提起し、人との繋がり、関係のあり方などについて、考えさせる良い部分も多く持ち合わせていると思います。
最も印象に残ったのは学園祭の場面。
山岳部のコーナーに掲示された一枚の写真からはじまるくだり…。
あらすじを読んだら分かると思いますが、ネタバレで鑑賞する意味がなくなってしまいますので、あまり多くを語りませんが、同級生の松井の今までの悪行が明らかにされる部分。
その写真を密かに撮影し、掲示することを内緒にしていた山岳部顧問の先生が、主人公の杏平がその写真を見つけたとき、それまでの杏平が受けてきた嫌がらせや苦しみを知っていて、顧問の先生が「今まで大変だったなぁ、よく頑張ったな」という場面です。
隠れた嫌がらせイジメを受けていた事をようやく分かってもらえる、苦しい胸の内を理解してもらえる人がいたんだと安心しそうな場面です。
しかし、杏平は「知っててどうして今までほおっておいたんですか…」と凄みます。
さらには、その写真の件で、松井に切りつけられそうになった杏平が逆にそれを奪い返し、松井に馬乗りになり殺しかけた場面で、周りに発した「なんで、黙ってるんだよ」という台詞。

昨今、いじめの問題で学校や教育委員会がやり玉に挙げられています。
当然ながら、学校や教師の対応や教育委員会のあり方には、多くの問題があったでしょう。
しかし、そこだけに批判の矛先を向けるだけで本当に良いのでしょうか。
本当は、周りのクラスメイト、その他の同級生も知っていたんじゃないのでしょうか。
しっていたにも関わらず、黙りを決め込む、知らないことにしておく、その部分でのみ関わりを意識的に断っていく。そんな世界がこの世の中には、あまりにも多くなりすぎた気がします。

「関係ない、なんて思うな」杏平の叫びが心に響きます。

評価 ★★★★★ ★★☆☆☆ 70点


(あらすじ)
高校時代に親友を“殺した”ことがきっかけで、心を閉ざしてしまった永島杏平(岡田将生)は、父・信介(吹越満)の紹介で遺品整理業“クーパーズ”で働くことになる。
社長の古田(鶴見辰吾)は「荷物を片付けるだけではなく、遺族が心に区切りをつけるのを手伝う仕事だ」と杏平を迎える。
先輩社員・佐相(原田泰造)、久保田ゆき(榮倉奈々)とともに現場に向かった杏平。
死後1ヶ月経って遺体が発見されたその部屋では、ベッドは体液で汚れ、虫がチリのように部屋中に散乱していた。
最初は誰もが怖気づくという現場に杏平は黙って向き合うが、ゆきに遺品整理のやり方を教わっている最中、彼女の手首にリストカットの跡を見つける……。
3年前。生まれつき軽い吃音のある杏平は、高校時代、同じ山岳部の松井(松坂桃李)たちに陰でからかわれていた。
そんな中、松井による陰湿ないじめと周囲の無関心に耐えられなくなった山木(染谷将太)が飛び降り自殺をする。
その後、松井の悪意は表立って杏平へと向かい、何も抵抗できない杏平だったが、登山合宿で松井と二人きりになった時にふと殺意が生まれる。
崖から足を踏み外した松井を突き落とそうとする杏平。結局、杏平は松井を助けるが、松井は「滑落した杏平を助けたのは自分だ」と周囲にうそぶく。
だが文化祭当日、山岳部の展示室には松井を助ける杏平の写真が大きく飾られていた。顧問の教師が撮影していたのだ。
それは、教師や同級生たちが松井の悪意や嘘を知っていながら、それを見過ごしていたという証拠だった。
杏平は再び松井に殺意を抱き「なんで黙ってるんだよ」と叫びながら松井に刃を向けた……。
ある日、ゆきは仕事中に依頼主の男性に手を触られ、悲鳴をあげ激しく震えた。
心配した杏平は、仕事帰りにゆきを追いかけ、彼女はためらいながらも少しずつ自分の過去に起きた出来事を杏平に告げる。
そのことでゆきは自分を責め続けていた。なぜ自分は生きているのか。自分の命は何なのか。
何かを伝えようとするが言葉が見つからない杏平。そして、ゆきは杏平の前から姿を消した…。



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Posted by no-bu at 08:26│Comments(0)映画
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